2012年7月18日発行 Vol.17 オリンピック号
 

 

丸川さんからのメッセージ 

近頃フェアトレードという言葉をしばしば耳にしますし、「交友会の紅茶もフェアトレードの商品ですか」等という質問を受けたりもします。確かにそうとも言えるのですが、ちょっと待てよ、という気をいつも持っています。例えば、フェアトレードの形として、価格にプレミアムを上乗せするという形がしばしば取られます。そうすることによって、生産者により多くが還元されるから、という考えからです。実にもっともな考えなのですが、ちょっと待てよ、とここでも考えてしまいます。Githongo Tea Factoryを例に取りますと、5500戸の生産農家が平均0.2ヘクタールの茶畑に約2,000本弱の茶の木を持っていることになっています。典型的な小農家で、支援するに値する対象といえます。


しかし!!この5,500戸の中には何ヘクタール、更には何十ヘクタールの茶畑を持つ人も存在するのです。価格に上乗せしたプレミアムは、生産した紅茶の量によって分配されますから、こうした大農家が大きな分配を受け、本当に支援を必要とする人たちにはほとんど回らないことになってしまいます。これはおかしい!!やはり、本当に支援を必要とする人たちに直接届く形で、お金を使うのが一番大切ではないでしょうか!?では、何処に??という質問が次に出てくるでしょう。ということになると、それはやはり「教育」ではないでしょうか!!!

 

ケニアでは、ナイロビだけではなく、我々が紅茶を買い付けているGithongo地区のような田舎でも、私立小学校が大全盛です。なぜそうなのかは、ここでは説明しきれませんが、とにかく少し余裕のある家庭は子供を私立小学校へやります。ということは、公立小学校には貧しい家庭の子弟が集まるということになります。公立小学校は、先生方の給料は政府が払ってくれますが、他のほとんどを自給しなければなりません。子供達の親が貧しければ、その寄付でとてもまかないきれません。という訳で、公立小学校の教育環境は非常に貧しいということになります。

 

上記が、当会が茶葉収穫地域の公立小学校に寄付を行っている理由です。また、後にも出てきますが、優秀にもかかわらず、貧困のため、高校に進めない子供達への奨学金をはじめました。もちろん、この子たちも公立小学校出身です(ケニアは小学校8年、高校4年)。もちろん、こうしたことは我々がナイロビに常駐しており、紅茶工場を通して地元小学校とつながりを持っているから出来ることですが…。今回奨学金を始めたことにより、公立小学校の校長先生に推薦してもらう過程で、つながりがより強くなったようです。

 

今回の奨学生選考に関して起こった、エピソードを一つ紹介します。

 

奨学生の選考は、茶葉収穫地域にある19の公立小学校の校長先生に、優秀ながら貧しいため、高校に進めないだろう子供達を推薦してもらい、その中から選ぶことにしました。その結果、1月の半ばには14名のリストが出来上がりました。ただ残念なことには、当会の予算では、5~6人を援助するのが精一杯でした。
14名の中からどうやって5~6人を選ぶか!?成績から選ぶのか、必要度から選ぶのか。結果として、国立高校へ入学許可された成績1位のリスパ・ムエンドゥワさん(女子)の他は、必要度で選ぶことにしました。

 

まず、両親のいない孤児、次にシングル・マザー。私の知る限り二親がそろっていると、いかに貧しくとも、シングル・マザーの子供とは貧しさの程度が違います。その結果、更に6名を選ぶことが出来ました。少々多すぎるのですが、こうした選考はいつもこうなってしまいます。2月早々に出身小学校と、入学許可した高校に連絡をとりました。

 

選考でのやりとりに手間取ってしまい、連絡を取ったときには、すでに新入生の登録は一週間程前に始まってしまっていました。やはり心配したとおり7人中4名は学費が払えず、高校には行っていませんでしたが、我々の連絡で遅ればせながら高校へ入学させることができました。その中の1人エスタさんに関しては、また別の問題が発生していました。

 

エスタさんは孤児でおばあさんに育てられました。小学校の成績はよかったのですが、やはり非常に貧しく、いろいろな困った際には先生方に助けてもらって卒業したようです。高校には通りましたが、初めから入学できる希望もなく、全くあきらめていたようです。そこに知り合いのおばさん(親戚?)が現れて、「高校に入れてあげるから、私のところに来なさい」と言われたのだそうです。この話を教えてくれたエスタさんが卒業した小学校の校長先生は「高校に入れるというのは口実で、自分のところで働かせるつもりなんだ」と息巻いていました。我々もいざModern Slavery(現代の奴隷制)と出くわしたかと緊張しました。

 

校長先生が教えてくれたエスタさんが入学するという高校は、我々になじみの深いニャフルル地区でしたので、さっそくその高校の校長先生に電話を入れてみました(ケニアは恐ろしく携帯が普及しています)。校長先生の話では、確かにエスタさんは入学登録を済ませ、学校に通って来ているとのことでしたので、エスタさんが奨学金を得て、田舎のメルーで寄宿県立高校に入学できるので、送り返すよう手配して欲しい、とお願いしました。

 

実は、この校長先生は、奨学金や教科書寄付、陸上競技等、私がニャフルルで行った支援活動を通して私のことをよく知っており、(私はニャフルルではかなり有名です)話はかなりすんなり通りました。一応、エスタの保護者(ガーディアン)と話をしなければならないので、週明けにもう一度電話を欲しいとのことでした(電話をしたのは金曜日)。そのいわゆるガーディアンから、エスタのために出費した経費を返済しろと言われるだろうと思いながら、月曜日、校長先生に電話したところ、「エスタさんはもうメルーに戻った」とあっさり言われてしまいました。

 

出身小学校の校長先生に電話を入れると、確かに帰ってきたとのことでした。その後、授業料の支払いを済ませ、制服等の入学に関するショッピングは、今度は入学する寄宿県立高校の教頭先生(女性)にお願いしたりで、少しバタバタしましたが、今は元気にその高校で勉強しているようです。めでたし、めでたし。
ニャフルルへ連れて行ったおばさんのほうからは、返済の要求もなく、実際は悪い人ではなく、良い人だったようです。ただ、こうしたことはしばしば起こっており、何かが少し違っておれば、やはりModern Slavery(現代奴隷制)になっていたかもしれません。何せエスタさんはまだ15歳の女の子ですから。

 

2012年の奨学生を選考しました
優秀にもかかわらず貧困のため、高校へ進めない子供たちに対し、2011年より奨学金の支給しています(授業料の75%を直接、高校に支払う形式)。奨学生の選考は、茶葉収穫地域にある、当会が寄付を行っている19の公立小学校の中から、小学校の校長先生の推薦を通して行います。候補者の家族が、茶畑を持っているかどうか、問わずに、また、成績はKCPE(小学校の卒業資格試験、全国一斉テスト)の結果で選考しました。当会の考えは、人間のつながりを大切にした紅茶販売からの利益の一部を、本当に必要としている人に援助しようというものですから、紅茶畑を持っていなくても、ましてや彼らも同じ地域コミュニティのメンバーなわけですから、彼らを援助するのは、理にかなっていると考えます。今年選ばれた奨学生は、つぎのとおり7名です(名前、出身小学校名→進学した高校名)。

 

1. エリアス・ムオンゲラ君Mpuri小学校→Keeru高校
2. エスター・カグウィリアさんMuthangene小学校→Kibirichia女子高校
3. ジョイ・ガチェリさんMuruugi小学校→Kirigara女子高校
4. エバリン・ガキイさんKathiranga小学校→Uruku女子高校
5. ゴッドフリー・ムイルンギ君Karugwa小学校→Miathene男子高校
6. ケルビン・キノティ君Kianthumbi小学校→Burieruri高校
7. リスパ・ムエンドゥワさんKijijone小学校→Loreto女子高

ロンドン・オリンピック

男子陸上以前にも書いた世羅高校出身のビダン・カロキ君がロンドン・オリンピックに出場します。出場するのは陸上男子1万メートル。日本時間8月5日の早朝6時15分(ロンドン時間4日夜9時15分)のスタートです。ぜひ見て、応援してやってください。ケニアから男子1万メートルで、オリンピック出場だけでもすごいのですが、ひょっとすると金メダルを取るかもしれません。

茶葉収穫地域のGianthune小学校
茶葉収穫地域のGianthune小学校